映画『ノルウェイの森』

この映画は日本文学を代表する村上春樹氏のベストセラー小説『ノルウェイの森』をベトナム出身の映画監督、トラン・アン・ユン氏によって映画化された作品です。
この物語は恋人を亡くし、精神を病んでしまった女性直子と、恋愛や人生について葛藤する主人公ワタナベの愛と死をテーマに描かれています。
主演は松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子など、実力のある俳優達が多数出演しています。
この作品は原作の透明感のある瑞々しい背景描写を再現したかのような美しい映像が素晴らしかったです。
特に中盤、直子とワタナベが早朝の草原を歩くシーンは秀逸です。
そのシーンで直子は愛した人を失ったことがきっかけで誰かを愛することが出来なくなったと告白します。
そして感極まり草原をかき分けて丘の向こうへ走り去ろうとする直子をワタナベが追いかける場面はとても印象的でした。
いまでの排他的でのっぺりとした街や大学のシーンと違い、このシーンの幻想的かつ非現実的な光景はなにか不吉なことが起こる予感を感じさせる名場面だと思います。
この映画は全体を通して背景や服装、細かな小物に至るまで昭和の生活を感じられるなど、原作の時代設定に合った作品づくりがされていてとても良い雰囲気です。
そしてエンディングで流れるビートルズの原曲、『ノルウェイの森』も、どこか昭和を感じることが出来、作品と調和していました。
しかしこの映画での昭和という時代設定の必要性に少し疑問を感じました。
原作ではたびたびワタナベの通う大学で学生運動が行われている描写があります。
その中でワタナベは学生運動に参加する生徒達をあまりよく思っていない事が提示される場面があるのですが、このシーンはワタナベの人生観や思想が学生運動をする生徒達という『一般の思想』から大きく外れているという事を表しているように感じました。
ですが今回のこの映画はそう言った学生運動に参加する学生達について言及するシーンがなく、ただ背景として登場するだけなのでこの映画が昭和の不安定な日本を描くことに特に意味はないと思いました。

歪な構成にテーマの荒さで登場人物たちに感情移入は出来ませんでしたが作品全体を通して人を愛することや生きることの困難さとはこういうものなのかもしれないと思える作品でした。